幾千の戦いがあった。幾万の死を与えてきた。幾億の星が流れても、彼女が朽ちることはない。
折れた剣と、欠けた鎧と、無数の死体でできた丘で、彼女は呟いた。
「ああ、本当に、つまらないな。」
彼女に名は無い。
魔王、魔神、畏怖する者達によってそう呼ばれる彼女は、終焉を超え続ける。
そしてまた、一つの別れがやってきた。
白銀の毛並みを持つ美しき獣。突出した異能を発揮する事も無く、類まれなる戦闘スキルだけで数多の勇士を育て、殺してきた。
『バルトフェザー』
四天王を打倒してなお、立ち塞がる最強最悪の番人として恐れられてきた彼にも、終わりは訪れる。
「ねぇ、バルトフェザー。あなたもやっぱり、わたしを置いていくのね。」
彼女は赤い月の光が差し込む神殿で、彼の白銀の毛を撫でながら、言った。
「ーーーーーーーー」
彼は、小さく喉を鳴らした。どんな武器でも貫かれず、どんな魔法をも弾き返していたその力はもう感じられない。
彼は、最期に彼女へ問いかけた。
「わたしの夢は何かって?最初で最期の質問がそれでいいの?」
彼は、閉じかけた瞳で応じた。
「夢。そう、夢、ね。そうだなぁ・・・」
彼女は思い返す。あの日から、今この瞬間まで、ただ一度の敗北もない。
どんな力も、どんな奇跡も、彼女を滅することはできない。
この世界に存在できる力の最上級、最上限、ハイエンドのさらに上に在る彼女を滅する事は、彼女自身にすら不可能だ。
待っていた。
待っていた。
いつか、いつか誰かが終わらせてくれると。
可能性は摘まず、育てた。
奇跡へ導き、神器を与え、あらゆる方法を使って育てた。
自分を殺す者を、育て続けてきた。待ち続けてきた。
しかし、彼女はおろか、バルトフェザーを打倒する者すら、この世には存在しなかった。
彼女が常に放ち続ける膨大な魔力は、抑えていても人界を蝕んでいく。終わりは近い。
世界が滅びてもなお、彼女は存在し続ける。その力は輪廻の外側をも掌握した。時間ですら、運命ですら彼女を殺せない。
もう、疲れたよ。
彼女は、それでも、生き続ける。
そんな彼女は、一体何を夢見るのか。
数万年を共に生きた白銀の獣は知りたかった。
「・・・明日が、欲しい。」
その言葉を聞いた直後、死の間際で獣は夢を見る。
無限の可能性の中にいる、主の姿を夢に見る。
そして、力は発現した。